同じ月を見ていた

色々捏造してます (シリアス気味)


 誰かが廊下を慌ただしく走る音と遠くで誰かが叫ぶ声が夜明け前からこだまする。
 今宵、なかなか眠れず浅い眠りについていたは、すぐにその音に気付き目を覚ました。 木の葉が色付き始めたこの頃は、葉の色が色づくに連れ秋の気配も少しずつ色濃くなり、夜明け前のこの時間帯は一層冷え込んでいた。 そばにあった着物を一枚上に羽織り外の様子を窺おうと起きあがる。すると、襖の向こう側から、三席の伊江村の声がした。

副隊長!」

 急いで駆け付けたであろう伊江村は息を整え静かに状況を伝える。訊けば、緊急隊首会が行われ、それに伴い副隊長も招集されたのだと云う。
 異例とも言える夜明け前の隊首会――
 まだ薄暗い空を見上げながら、身支度を整えるは内側から湧き起こる胸騒ぎを止められずにいた。 四番隊の副官章を腕に巻き、部屋を後にするとすぐ十三番隊の副隊長、志波海燕に会った。

「ヨウ、
「海燕……」

 いつもと変わらぬ様子の海燕の呼びかけに、は眉を歪めて微笑んだ。

「なんだ?そんな情けねぇ顔して」
「だって、こんな時間に招集なんて……」

 いつになく不安げな表情を見せるに海燕は、ポンと頭を撫で「なぁに、大丈夫だ。大したことじゃねぇよ」そう言って、また相変わらずの笑顔を見せた。大したことじゃないなら、こんな時間に招集などされないと分かっていても易い言葉をかけずにはいられなかった。

 二人が到着すると、既にほとんどの副官が集まっていて、「おはよう」と挨拶するにはまだ少し早く、軽く会釈を交わしその中へ。 其処に居る誰もが、異例の招集に疑問を抱いていた。口々に「何があったのか」「どうしたんだ」と声にした。そして其のざわめきは、次に戸を開けた者によってピタリと静まった。 皆の視線の先には、一番隊副隊長。伝えられたのは、隊長二名の失踪。
 その二名の名はよく知った名前だった。
――浦原喜助、四楓院夜一

「おいっ!」

 副官達が再びざわめき出す中、その知らせを聞いたは膝から崩れ落ちた。隣に居た海燕が抱き留めると、顔は青ざめカタカタと小さく震えていた。

「喜助さんが……失踪?」

 喜助との仲は護廷十三隊の中でも知っている者が多く、ほとんどの者がゆくゆくは婚約、結婚となるであろう、そう思っていたに違いない。 そのがこの場に居て、代わりに夜一が失踪とはどういう事なのか? 同情や、冷ややかな視線が浴びせられる。
 がどんなに喜助の事を愛していたかよく知っていた海燕は、護るようにその場からを連れ出した。

「……っ、、隊舎に着いたぞ」

 海燕が何度か呼ぶと、ようやく微かな声で答えた。まだ混乱しているを独りにさせるのは心残りだが、既婚者である海燕がずっと傍にいれば、それはそれでよくない噂が立つに違いない。

「お前、独りで大丈夫か? 辛かったら、いつでも飛んで来るからちゃんと言えよ?」

 ちゃんと聞こえているのか、いないのか。虚ろな眼で、コクリと頷く。
 締め切った部屋に独りになると何度も繰り返しては、喜助の名前を呼んだ。喜助を失ったからなのか、何も告げなかった喜助を恨んでるのか、何故、夜一も居なくなったのか…… いくら泣いても溢れ出る涙は、意味さえわからない。

 翌日、の元へ地獄蝶が姿を現す。
 伝えられたのは、喜助が追放罪に処され、逃走したという事。そしてその逃走を幇助し、共に姿を眩ませたのが夜一で、彼女は永久除籍に罰せられたという事だった。

同じ月を見ていた/2005※2020加筆修正

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