はじめまして愛しい人

嶋本と酔っぱらい※似非関西弁が酷いのでご注意


「お前飲み過ぎやろ、いいから帰れ」
「いやですー! もう1軒行きましょうよ」

 この日、はいつもよりあきらかに飲んどって、もう1軒行かないと帰らないと駄々を捏ね始めた。2次会でまた酒なんて飲んだら、明日の仕事に支障きたすに決まってる。 かと言って、どう考えてもこのまま帰る気は無さそうやし……。
 くれぐれも酒は飲むなと念を押して、仕方なしに居酒屋から少し歩いた所にある知り合いのバーに行く事にした。

「お前んとこ心配になる程客おらんな」
「海保の皆さんがいつ大勢で来てもいいようにしてるんですよ」
「そうか、じゃあ、もっと来なあかんな」
「それより、どうしたんですか? 今日は随分と可愛らしいお客さん連れてますね」
「可愛らしい? ただの酔っ払いや」

 店の雰囲気も酒も申し分ないのに、立地の悪さからかいつも決まった常連ばかりしかいなかった。
 マスターとの冗談も程々にウーロン茶といつもの酒をオーダーしてカウンターの端っこに座ると、堰を切ったようにが喋り出した。

「嶋本さん聞いてくださいー! 私、この間……」
「おっ、ちょ、お前っ、声うるさいっ!」

 周りの雰囲気にそぐわないボリュームで話し出すのを慌てて止める。連れて来る店を間違ったな、と瞬間後悔したが、素直に声を小さくするが、酔うてるくせに聞き分けがよくてなんだか可笑しなる。

「え、何笑ってるですか? 笑うとこじゃないんですけど!」
「すまん、すまん、それでなんて?」

「えっと、だから、この間ちょっといい感じだなって思ってた人がいたんですけど…… でも、そっちはヤれればラッキーくらいにしか私のこと思ってなくて……」
「なんか前にもそんなことあったやろ? いい加減学習せぇや」

 こいつが荒れる時は決まって男だろうと察しはついたが、よくもまぁ懲りないもんや。ちょっといい感じに言い寄られると断れないというか、よく言えば素直なんやろうけど、騙されやすい性格で危なっかしい。

「なんでいつもそんな男ばっかりなんですかね? 男運悪すぎじゃないですか!?」
「男運ていうより、お前が男見る目ないんやろ」

 全然慰めてくれないし冷たいと噛みついてきて、「自分の事を本気で好きになってくれる人なんか誰もいない」と泣き出した。
 ああ、これだから酔っ払いは嫌いだ。自分の言いたいことだけ言って、同意しなければ泣き出して。

「そんなことないやろ、お前のこと本気で好きなやつ1人おるやろ、しかもとびきりええ男やぞ」
「えぇっ!! 誰ですか? 私の知ってる人ですか?」

 そう言ったら泣き止むんじゃないか、そんな安易な考えで口にした言葉に思っていた以上に食いついてくる。しまった……と押し寄せる後悔をグラスに残った酒で紛らわす。

「あ、そんな事言って、ホントは居ないけど元気つけてやる為に嘘ついてくれてるんですか? そうなんでしょ? やっぱりいないんだ……」
「あーもう、わかった! 教えてやるからこれで酔い醒ませよ」

 酔っ払いには教えられんと言う俺と何度か押し問答の末、卑屈な事を言い出しまた涙を溜めてる。
 俺も大概酔いが回ってるのかもしれんな、と思いながらの顎をくいっと上げ唇に軽くキスを落とした。

「お前のこと本気で好きな男は……俺や」
「え?」
「酔い醒めたか?」
「ん? え? え? どういう…… え?」
「お前なぁ、何回も言わすな」

 状況が一切把握できない様子の

「え、だって、妹みたいって……」
「あほか、そんなん職場で軽々しく言う訳にもいかんやろ」

 ついさっき酒の勢いで言った奴が何言うとんねん、と心の中でツッコミを入れてるとが思いがけない事を言ってきた。

「それならそうと言ってくださいよ、私のこと妹みたいに思ってるから絶対好きになってくれないと思って諦めてたのにー!!」

 怒ってるのか笑ってるのかようわからん感情で泣きながら、ポカポカと俺の腕を叩く。せっかく泣き止んだのに、今度は俺が泣かせてるなんて本末転倒やな。

「なんや、すまなかったな。そんなことならもっと早く言うんやったわ」

 ほんまやで。随分、遠回りしたわ。
 柄にもなくの肩を抱き寄せ、あやす様にポンポンとなぐさめてると、何かふっ切れた様に突然すっくと起き上がる。

「嶋本さん、もう1回言ってください」
「は? 何回も言わすな言うたやろ」
「じゃ、私のどこが好きなんですか?」
「うるさい、酔っ払い!」
「ねぇねぇ、教えてくださいよ」
「調子に乗んなアホ!」

 そんなん、全部に決まってるやろ!なんてことを喉の奥にぐっと飲み込んだ。
 この続きは、酔ってない時にな。


はじめまして愛しい人/201808

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