縁側から見上げる空は高く、月も星も遠くに輝いていた。鼻先をかすめる空気は澄んでいて秋の気配を感じる。
今夜は月が蒼く満ち、その吸い込まれそうな程の怪しい色を眺めながら、はぼんやりと縁側で喜助の帰りを待っていた。
「オヤ、サンこんな所にいたんスね」
音もなく後ろから声がして、喜助が帰ってきた事に気付く。
「いやぁ、黒崎サンに捕まってしまいまして、つい遅くなってしまいました」
「あっ、お帰りでしたか。すいません、気付かなくて」
立ち上がろうとしたを制し、「今宵は月が綺麗ですからね」と隣へ腰掛ると、ふわっと自分の羽織の中にを包み込んだ。月明りに照らされているの鼻先がほんのり紅くなっているのを見つけてそうしたのだが、いつから居たのか。その躰は服の上からでもわかるほどひんやりとした。
「こんなに冷えちゃってるじゃないスか」
「喜助さんの帰りが遅いからですよ?」
「アタシの所為ですか? では、責任もって温めなくちゃいけないッスねぇ」
頬を膨らましてわざと意地悪そうに云うを愛おしそうに見つめ、喜助はクスクスと答えた。喜助の右手が、冷えたの左頬へそっと添えられると、じんわり感じる喜助の掌の温かさに安心するかの様に瞳を閉じた。親指で頬骨の辺りを2度3度撫での冷えた唇に軽くキスを落とす。
「ホラ、唇までこんなに冷えて」
何度触れられても喜助に触れられるのは緊張するもので、其れを隠すように俯くと、髪がサラサラとの頬を隠した。
喜助は其れを除ける様に指先を髪の間へすっとやると、半ば強制的にの顎をクイっと上げる。
喜助の強い力に眉を歪め、喜助を見つめる。
「参ったなぁ……サンはアタシを煽るのが上手い」
そう云うと、少し緩くなってる口元に誘われる様に唇を重ねた。それは、先ほどのキスとは比べようの無いもので、唇を奪われると一気に眩暈の様な感覚に陥った。
「…ぅんっ……」
見えない鎖に縛られているみたいにキューっと躰が締め付けられ、全身の力が抜けて溶けてしまいそうな程強く優しく甘いキス。
「……っ……はぁ……」
角度が変わる時に出来る隙間から酸素を取り込むは苦しそうな表情を浮かべていたが、喜助はお構い無しに深く追った。
気が遠くなる程喜助に攻められ、やっと解放されたの口元からは唾液がタラリと顎へ伝い、喜助は其れを親指で拭き取った。
「こういうのは厭ッスか?」
少し息の乱れた喜助が問うと、は首を小さく横に振り喜助の腕をきゅっを強く握りしめる。
の気持ちを確認すると、瞼にキスを落とした。
「ホント、可愛い人だ、サンは」
貴方と一緒に居れば、寒い季節でも心も躰も温かい。
また一つ、貴方と過ごす季節が変わる。
キスの温度/2005※2018加筆修正