黄昏時に似た映画館のちょっとトーンダウンした照明とロビーに広がるポップコーンの香り。映画が始まるまでの待つ時間は嫌いではない。
「なんでわざわざ映画館で集合なわけ? そもそも家に寄って起こしてくれたら遅刻だってしないのに」
なんでわざわざって、そんなの、待ち合わせした方がデートっぽいからに決まっている。
待ち合わせの時間を少し過ぎた頃現れたクロは、寝起きで少し不服そうだった。遅刻したことをとやかく咎めたりしていないのに。
クロと映画を観るなんていつぶりだろう。一緒に観たい映画があっても、部活で忙しそうなクロを誘うのはちょっと気が引けた。だからクロの方から「久しぶりに映画でも行かね? ちなみにこれ、デートのお誘いなんですけど」と誘われた時は嬉しすぎて、きっと変な顔をしていたと思う。
「席、一番後ろでいいよね?」
「カップルシートじゃなくて?」
「カップルシートないです」
「まじで?」
疑うクロが画面を覗き込む。目線の高さが同じになるだけで急に心臓が跳ねるのは、付き合う前も今も変わらない。すぐ横で「カップルシートが良かった」と落胆するクロに、それを悟られまいと急いでチケットを発券した。
「なぁ、もしかして俺の身長気にして一番後ろにした?」
「した」
「黒尾さん脚が長いだけで座高は高くないんですけど」
その身長でその髪型ならやっぱり後ろの席に人がいたら邪魔でしょうが……と思いつつ、ホントは自分がそうしたかっただけ。映画館の席はだいたい真ん中が1番見やすいというけど、一番後ろの方がなんか気兼ねしなくて好き。
「飲み物は?」
「何がいいかなぁ……」
「俺いつものやつ」
「またスプライト?」
「うるせ、俺は一途なの浮気しないの」
ポップコーンとホットドッグも一緒に注文し「さんゴチになります」とか言いながら全部クロが払ってくれた。自分の分は自分でと引かない私に「初デートなんだからカッコつけさせてよ」と言われては引かざるを得ない。
「じゃあ、黒尾さんゴチになります」
ニッと満足気に笑い、山盛りのポップコーンやジュースを乗せたトレイを受け取るとタイミングよく入場のアナウンスが流れた。
歩幅を合わせて歩くクロが「今日は珍しくスカートじゃん」と他にもニヤニヤ言いたそうにしていて、うっすらとした化粧とデートの為にわざわざ新調した着なれない服を纏っている気恥ずかしさが込み上げ俯く。
「似合ってんね」
さらりと褒められるとそれはそれで恥ずかしい。恋人扱いには正直まだ慣れていない。
今までだってずっと一緒にいたし、2人で出掛けることもあった。付き合うってなってもそれほど変わらないと思っていたのに、気持ちだけでこんなに変わるとは……。 パチパチ弾ける炭酸の沫の様に恋人という感覚が時折パチパチと私の中で弾け、見る映画は恋愛とは無縁のアクションなのに甘い気持ちで満たされる。
ロードムービー/20181011